生ハムの産地であるイタリア、スペイン、フランスでは生ハムは国民食です。スペインだけでも数千ものメーカーが生ハム作りを行っています。しかし、ひとつとして同じ味の生ハムはありません。それは原料となる豚に個体差があることはもちろん、重要なのは気温や湿度によって熟成具合が異なるという点です。
スペインの国土は日本の1.3倍でほぼ同じ緯度です。夏は暑くて冬は寒い、寒暖差が大きく乾燥しています。ハモン・セラーノで10ヶ月~、ハモン・イベリコで36ヶ月~という長期に渡る分、気温や湿度の影響は大変大きいです。
ハモン・セラーノに関してはスペイン全土で製造が行われています。中でも有名なのがトレベレスとテルエルと呼ばれる地域です。このふたつは原産地呼称制度(D.O.)の認定を受けています。
原産地呼称制度(D.O.)とは、伝統的な製品の品質を守るために作られたEU諸国の規定です。特定地域において、その地域特有の原料を使い、伝統的に受け継がれてきた製法・加工を行って作られた製品にのみ与えられます。D.O.として認められるには、原産国の法律で定められ、独立した国内機関及び生産者団体により施行される厳格な生産ガイドラインと品質基準を満していなければなりません。
ワインが好きな人にはリオハという名前が慣れ親しんだものかもしれません。ワインと同様にハモン・イベリコにも原産地呼称が定められています。原産地呼称制度(D.O.)はスペインが独自に定めている生ハムの製造基準よりも厳しい内容となっています。その内容はイベリコ豚の飼育指定地域や血統の規定、体重増加の値や熟成方法など様々です。原産地呼称の称号を手にするには、毎年厳しい基準に合格しなければならないのです。
ハモン・イベリコの産地
イベリコ豚の生ハムについては下記の4箇所が原産地呼称制度(D.O.)として認められています。
- ギフエロ
- エストレマドゥーラ
- ロス・ペドローチェス
- ウエルバ
それぞれの地域で気候が異なるため、生ハムの味も全く違います。地域ごとの特徴を見ていきたいと思います。
ギフエロ
4つの地域の中で最も北に位置しており、夏と冬の気温差が激しい地域です。とはいっても年間を通して涼しく、乾燥しています。青森~北海道と同じ緯度に当たります。ギフエロでは皇族に献上されるために生ハムや腸詰製品が生産されてきました。ハモン・イベリコの中では最古の原産地呼称として知られ、実に国内生産量の半分以上がこのギフエロで生産されています。
ギフエロ産の生ハムの特徴は、比較的塩分が控えめであるということです。涼しく、乾燥した地域の為、塩漬け工程においてゆっくりと塩がなじんでいくためです。
当店が取り扱うアルトゥーロ・サンチェス社もこのギフエロで代々生ハム作りを行ってきました。100年の歴史を誇る彼らの製品は、このギフエロという地域の環境無くしては決して生まれなかったことでしょう。
ちなみにかの有名なホセリートもこのギフエロで生ハムを作っているメーカーです。
エストレマドゥーラ
北にはトレド山脈、南にはモレナ山脈が存在し、標高は海抜400mという地域です。山形県と同じ緯度に当たり、平均気温は17℃前後で穏やかな大陸性気候です。ポルドガルのすぐ隣にあり、ちょうどイベリコ豚が育つ良質なデエサがあることで有名です。
そのため、もちろん生ハムの産地として有名ですが、どちらかというとデエサとしてのほうが有名であるように感じます。実際にこのエストレマドゥーラのデエサで育ったイベリコ豚を仕入れて加工をするメーカーがたいへん多いです。
エストレマドゥーラ産の生ハムもギフエロ同様、マイルドな味わいです。ただ夏場は40℃に達することもあり、その分ギフエロ産と比べると塩気は少し強くなります。
ロス・ペドロチェス
アンダルシア地方にあるこの町は、新潟県とほぼ同じ緯度にあたります。この地域の北部にはデエサが広がり、昔からその生態系を利用した農業が盛んに行われてきました。そのひとつに、ドングリを飼料として活用してきたという歴史があります。だたし、原産地呼称(D.O.)として認定されたのは4つの地域のなかで最も新しい地域です。
ロス・ペドローチェスは7、8月に日中の気温が40℃を超え、夜は20℃まで下がります。この地で生産される生ハムは比較的淡白な味をしています。言い換えるなら一番あっさりとしていると感じられます。
ウエルバ
4つの原産地呼称のうち、最も南に位置するウエルバ。この地域にあるハブーゴという村は、イベリコ豚の生産地として非常に有名ですが、最近までハブーゴというのはあるメーカーのブランドとして使用されていたため、原産地呼称としては名乗ることができませんでした。 しかし2015年になって長年続いてきた関係各所の調整が終わり、このウエルバという名前がハブーゴに改名されたのです。
この地域は温かく、特に夏場はかなりの高温に達します。そのため塩がはやく染み込み、熟成具合もはやまります。つまり、パンチのきいた味の生ハムを比較的短期間で仕込めるという利点があります。
まとめ
ハモン・イベリコが主に生産される地域として原産地呼称が定められた4つの地域を見てきました。生ハムは環境にかなり左右されるので、それぞれの地域の気候によって味に違いが生まれます。
ただし、この地域で生産される生ハムがこういう味だ!という明確な境界線はありません。それぞれのメーカーがどのように生ハムと向き合って、自然と対話をしているかで近くのメーカー同士でも全く異なる味を持った生ハムが出来上がります。
是非みなさんもこれを参考にしながら、お気に入りの生ハムを見つけてください。
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